デジタルマーケターの方向け
お役たち資料 限定公開中

国内外のDX先進事例の紹介に加えて 今年話題となったAIの進化やDX人材育成までを網羅

#DX白書2023

大きな反響をいただいた「#DX白書2022」を大幅にアップデートし、ディズニー等のDXの次に進もうとしている企業の先進事例やそれらを取り巻くAI/Web3などのDXトレンド紹介、そしてDXを推進するための人材戦略まで、検討のヒントになる情報を多数詰め込んだ内容となっております。

デジタルマーケターの方向け
お役たち資料 限定公開中

TikTokに興味はあるもののどうすればいいかわからない方

縦型動画を試してみたいけど、アサイン、ディレクションに対してノウハウが無い方

一度は試してみたけど、成果が出ず伸び 悩んでいる方

DX推進のご担当者、事業責任者の方

新規事業や組織改革を担う事業責任者の方

マーケティング担当、Web担当の方

  • トップページ
  • コラム
  • やさしくないし特別でもない。アクセシビリティはすべてのひとへの「あたりまえ」
2023/12/11 (月)
やさしくないし特別でもない。アクセシビリティはすべてのひとへの「あたりまえ」

著者: Kaizen 編集部

ディーゼロの平尾とSmartHRの桝田氏の写真

 

Kaizen Platformは、Webアクセシビリティに関して豊富なノウハウを持つグループ会社のディーゼロとともに、自社のWebアクセシビリティ向上に取り組むだけではなく、行政や自治体、そして民間企業に対して、Webアクセシビリティの課題診断から改修までを支援しています。

前回は、Kaizen Platform代表の須藤憲司とディーゼロの平尾優典氏が、そもそもアクセシビリティとは何か、アクセシビリティはビジネスになるのかといったテーマで対談を行いました。(https://kaizenplatform.com/contents/digital-days-2022

第二回目となる今回は、ディーゼロの平尾氏と、平尾氏が“アクセシビリティの盟友”と称する株式会社SmartHRの桝田草一氏が、アクセシビリティ人材の育成から、社内への啓蒙、企業が担うべき責任について率直な意見を交わしました。

株式会社ディーゼロ 平尾優典(Twitter:@cloud10designs

Webアクセシビリティ専門家/フロントエンドテックリード

アクセシビリティをベースに情報設計・広義のデザインから、実装、テスト、運用までのアドバイスやレビューを中心としたコンサルティングを行っている。また、社内では品質の管理やガイドラインの整備など「仕組み」による改善に取り組んでいる。HTML リンター「markuplint」(https://markuplint.dev/ja/)の開発者。HTMLのプロ。

 

株式会社SmartHR  桝田 草一 (Twitter:@masuP9
プログレッシブデザイングループ マネージャー/アクセシビリティスペシャリスト

2014年に製造業向けの法人営業からフロントエンドエンジニアに転身。2017年にサイバーエージェントに入社、Webフロントエンド開発や、全社のアクセシビリティ推進を担当。その後、2021年にSmartHRにプロダクトデザイナーとして入社。従業員サーベイ機能のプロダクトデザインのほか、2022年にアクセシビリティと多言語化を専門とするプログレッシブデザイングループを立ち上げ、全社のアクセシビリティ推進に従事。

「アクセシブルなWebサイトを頼める制作会社」で一番に想起したのがディーゼロだった

平尾:今回はアクセシビリティの盟友をお呼びして、アクセシビリティについて対談させていただきたいと思います。SmartHRのますぴーこと桝田さんです。よろしくお願いします。

桝田:SmartHRの桝田です。僕は平尾さんのことをゆうてんさんと呼んでいるので、今日はますぴーとゆうてん呼びでいこうと思います。

株式会社SmartHR 桝田草一氏の写真

株式会社SmartHR 桝田 草一氏

桝田:SmartHRは、人事・労務の業務効率化はもちろん、働くすべての人の生産性向上を支えるクラウド人事労務ソフトです。
僕は現在プログレッシブデザイングループのマネージャーをしております。かなり聞き慣れない名前かと思いますが、簡単に言うと、アクセシビリティの向上や多言語化対応を通してSmartHR製品を誰でも使える状態にすることを目的とした組織です。
ゆうてんさんと最初にお会いしたのは……。

平尾:もともとSNSなどでお互いの存在は知っていたんですが、初めて会ったのは福岡(ディーゼロ本社所在地)で開催されたアクセシビリティの勉強会でしたよね。

桝田:その後、東京-福岡で離れているものの、お互い遊びに行くようになりましたね。ということで、今日は友達として呼んでいただいたので、ざっくばらんに色々話せたらと思います。

平尾:ますぴーさんは最近『Webアプリケーションアクセシビリティ 今日から始める現場からの改善』(著:伊原 力也、小林 大輔、桝田 草一、山本 伶 / 技術評論社)を出版されたんですよね。僕は発売前から内容レビューのために先行して読ませていただいてたのですが、すごいですよね、この厚さ。

桝田:そうなんですよ。家族からは、辞書?って言われました(笑)。

平尾:「Webアプリケーション向け」と書いてあったんですけど、感想としてはそんなこともないなと。Webサイトでも使われるUIについて網羅的に書かれているので、Webに関わる人は全員読んでほしい本ですね。


桝田氏が共著者として執筆した本を手にして話すディーゼロ平尾の写真

株式会社ディーゼロ 平尾優典氏

平尾:ますぴーさんとは友達であり、仕事でもご一緒することがあって。ディーゼロとしては、「働くの学び舎」(https://manabiya-project-smarthr.wraptas.site/)​​のWebサイトを制作させていただきましたね。

桝田:その節はありがとうございました。「働くの学び舎」は、世の中が急速に変化し働き方が多様化する昨今、働くことに関する知識を学ぶ機会を増やすことで、ひとりでも多くの人が心地よく、健康に、その人らしく働くための選択肢を増やしたいとの想いから立ち上がった共創プロジェクトです。学生向け出張講座や人事・労務の実務担当者向け資格検定などを通じて、日本の“働く”をアップデートする一助となることを目指しています。

そのWebサイトを作る際、プロジェクトの担当者から「CMSの要望も出せて、かつアクセシブルにしてくれる会社はないですか?」と聞かれたとき、ゆうてんさんであればJamstackの経験もあるし、アクセシビリティに関しては言わずもがななので相談させてもらいました。

「働くの学び舎」のサイトは、別のツールが裏で動いているんですよね。ただ、そのツールから公開できるWebページはめちゃくちゃアクセシブルじゃないので、ツールから情報を取ってきて、静的なHTMLに書き出す仕組みにしていただいて。その間のやり取りで発生したマークアップのズレなど細かい部分を直していただいたので、さすがだなと思いました。

平尾:いやいや……ありがとうございます。

SmartHRには、もともとアクセシビリティへの投資意欲があった

平尾:SmartHRさんは、最近アクセシビリティスペシャリストを募集したり、育成に力を入れていたりしますよね。ディーゼロはアクセシビリティスペシャリストがもともと僕だけだったんですが、もう一人増えたことでもっと増やしたい、育成したいと思うようになりました。ちょうど同じフェーズなのかなと思ったので、それについて話したいなと。
募集をかけた経緯を教えていただきたいです。

桝田:もともと、SmartHRでアクセシビリティスペシャリストという職能ができたのは、グループ発足時点でした。それ以前はプロダクトデザイングループという、プロダクトのUIデザインや情報設計に責任を持つグループにいたのですが、そこには僕と当時アクセシビリティエンジニアだった辻さん(Twitter:@KatsutoshiTsuji)の二人がいました。

その後、アクセシビリティエンジニアとプロダクトデザイナーはスキルセットも評価軸も事業貢献のアプローチも違うということで、プログレッシブデザイングループとして独立しました。そして僕と辻さんがアクセシビリティスペシャリストとして所属することになりました。

SmartHRはスタートアップなので、自分たちのプロダクトの価値を大きくして、より多くの人に届けるために投資をしていくぞという動きがありました。そうしたなか、やりたいこと/やってほしいこともいっぱい出ているタイミングで、「今年何人採用したいですか?」と聞かれて、「一人採用したいです」と答えたことがアクセシビリティスペシャリスト採用の始まりでした。

平尾:ますぴーさんが入社した当時、会社のアクセシビリティに対する理解はどうだったんですか? 投資意欲はあったんでしょうか?

桝田:私が入社したのは2021年なんですが、実は入社前に1年間、技術顧問という形でSmartHRに関わっていました。アクセシビリティの技術顧問を頼むぐらいだったので、投資意欲はその頃からありましたね。

また、アクセシビリティに興味を持っているデザイナーが、アプリケーション上のグラフのチャートの色を、多様な色覚でも見分けがつきやすいものを模索していたり、ブランドカラーの水色を使う際に見やすい視覚的な表現を探求していたりしました。

SmartHRについて語る桝田氏の写真

桝田:我々のソフトウェアを導入していただいてるお客さまは、ローンチ当初はスタートアップやIT企業のアーリーアダプターなど、従業員規模が100人前後の企業が多かったんですね。

私が技術顧問を依頼された時期はエンタープライズのお客さまも増え、お客さまが雇用している従業員の方々の多様性も広がってきている状態でした。

人事労務のアプリケーションなので、例えば年末調整ができない人がいると、その人用に新しい方法を組む必要があるわけですね。なので、いろんな従業員を雇用されてるエンタープライズのお客さまから、誰にとっても使いやすいアプリケーションにしてほしいという要望はちょくちょくいただいておりました。

平尾:当事者の声は既にあったんですか?

桝田:直接当事者の方からご意見をいただくというより、労務の担当者の方や導入の意思決定をする方の声として、アクセシビリティに関する要望はいくつかいただいてたみたいですね。

SmartHRがアクセシビリティに関心が高い理由としては、多様な従業員を雇用するエンタープライズ企業をはじめ、より様々な企業にとって使いやすい製品を提供していくためというのが大きいですね。

また、現在のVP of Product Designで、当時のプロダクトデザイングループのマネージャーが先程紹介いただいた本の共著者とかつて同僚で、その際アクセシビリティについて教わった経緯がありました。

ビジネス的な理由だけでなく、現場の個々の制作者のマインドもあった状態でしたね。ただ当時は体制や共通品質目標が整っていない状態だったので、組織や目標を整える役割で僕が技術顧問として入りました。

平尾:マインド的な土台があり、そこからますぴーさんが仕組み化を推進していったんですね。

桝田:そうですね。マインドはあるけども、体系化した知識の学び方もわからないし、何から手をつけていいかわからない人が多かったんですよね。一方で、マインドがあったからこそ、こう言ってはなんですが、楽でした(笑)。

平尾:人ってなかなか変えられないですからね。

桝田:以前のSmartHRのコーポレートミッションが、「社会の非合理を、ハックする。」だったんですね。そのため、例えば労働時間が極端に長かったり、マネジメントに問題があったりなど、「こういう非合理を許してはおけないな」という人が入社してくる傾向があるなと思っていて。

アクセシビリティも、高いアクセシビリティが必要な人にとっては、自身が使いにくいあるいは使えないシステムが導入されていると非合理でしかないわけですよ。そういう非合理さを自分たちが生んではいけないというマインドをみんな持ってた気がしますね。

だから最初に着手したのは、会社のミッションとアクセシビリティを繋げることです。そこで、アクセシビリティの方針を「社会の非合理をつくりださない」にしました。

社内の研修は、全職種に対する啓蒙的なものと開発側に対する高度なものの二本立て

平尾:続いて教育面について伺いたいです。SmartHR自体がアクセシビリティで有名にもなってきていると思うんですが、例えば広報や人事、営業などの方々に向けた啓蒙、推進はどのように取り組んでるんですか?

桝田:今は毎月入社された方向けの研修の中で、アクセシビリティ研修を実施しています。そこでアクセシビリティとは何かだったり、SmartHRがアクセシビリティをやる意義を伝えています。

また、担当してるのが全盲のスクリーンリーダーユーザーの辻さんなので、例えば日常業務では「Slackの画像に代替テキストを入れようね」など、様々な不便への対応について紹介しています。

平尾:なるほど。導入としてはすごく理解しやすいですね。

桝田:高いアクセシビリティを必要としてる人と一緒に働くとはどういうことかを考えるのは、すごく大事ですね。

ディーゼロ平尾とSmartHR桝田氏の対談の様子

平尾:デザイナーやエンジニアなど、制作側の方の教育はどうですか?

桝田:一つ取り組みとしてやってるのは、アクセシビリティマスター養成講座です。アクセシビリティマスターというのは、各開発チームの中で、アクセシビリティを推進する役割の人のことです。

開発チームには、エンジニア、デザイナー、品質管理(QA)、UXライター、プロダクトマネージャー(PM)など色々な職種が集まった一つのユニットが15、6チーム以上あるんですね。

それらのチームに、「アクセシビリティマスターとしてチームのアクセシビリティ向上を推進したい人はいませんか?」と声掛けをしています。手を挙げてくれた方々からは定期的にチームでの取り組みを共有してもらっています。さらに、こちらからは技術的なアドバイスを行ったり、例えばアクセシビリティの改善をチームに対してどう働きかけていくのかといった、コンサルティングのようなこともしています。

平尾:参加者の職種はバラバラなんですか?

桝田:そうですね。人数比的にもエンジニアが一番多いですけども、PMやQA、UXライターの方など幅広く参加いただいています。

平尾:職種によってアドバイスすることは変わってくると思うんですが、そのあたりで何か気づきはありましたか?

桝田:アドバイスする内容というより、職種ごとにアプローチの方向性が最初から異なっています。例えばPMの方は自分で実装改善はしないので、前提知識として今のプロダクトの品質を認識するところから始める方もいます。エンジニアはやはり実装寄りなことが多いですが、QAやUXライターからも実装について相談を受けます。

うちはクロスファンクショナルを推奨しているので、QAもUXライターもコードを書いて、気になったところは各々直せます。そういうムーブメントがあるので、職種関係なく実装のアドバイスをしていますね。

平尾:にわかに信じがたいというか、すごいですね。もう全員エンジニアって名乗っていいんじゃないかみたいな。

桝田:ただ専門領域はありますし、QA全員がコード書いてるわけでもないですし、その辺はチームの中でやっぱり違いますね。

ユーザーと向き合うことで、アクセシビリティの本質に気づいた

平尾:次に聞いてみたいこととして、プログレッシブデザイングループはアクセシビリティの他に「多言語化」のミッションを抱えているとのことですが、どういった経緯だったんですか?

桝田:もともと多言語化対応はカスタマーサクセス(CS)部門が担ってました。日本語が得意でない方でもSmartHRを使っていただけるように、英語や中国語、韓国語、ベトナム語、ポルトガル語に翻訳したものをプロダクトに反映させる必要がありました。でも、当時は機能開発の余裕がなくて。

そして私が入社してしばらく経った後に、CSのマネージャーから「多言語化って、広い意味で言うとアクセシビリティじゃない?」という意見が出たんですね。

当時アクセシビリティを進めていたのはプロダクトデザイングループだったので、多言語化を実施しているCSメンバーのキャリアも鑑みて「プロダクトデザイングループと一緒になった方がいいんじゃない?」と提案してくれました。その結果、多言語化とアクセシビリティは一つのグループとして独立することになりました。

この件を通してすごくいいなと思ったのは、多言語化は広い意味でのアクセシビリティだということにCSの人が気付いた点ですね。一緒にやりませんか? と、私が気づくよりも先に声をかけてくれたことが、アクセシビリティをすごく理解してくれてるなと実感しました。

平尾:アクセシビリティを学ぶ際、Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)を土台とするじゃないですか。

でもWCAGの中では多言語に関して深く書かれていないので、ますぴーさんから「多言語もやるんだよ」と聞いたときにちょっと感動しちゃって。アクセシビリティの本質を本気で考えないと多言語にたどり着けないので、本当にすごいなって。

桝田:今おっしゃったアクセシビリティの本質という話で、僕がSmartHRでこの発想が自然だな、特別なことじゃないなと思えるようになったのは、事業会社でユーザーと向き合うようになったからです。

ユーザーに向き合ってると、WCAGに書いてないことがめちゃくちゃあるんですよね。例えば「うちはスマホやPCを持ってない人が多いんだよね」とか、「高齢だからIT機器は苦手だよ」とか、「日本語が話せない人も働いてるんだけど、そのプロダクトは使えますか?」など、いろんなユーザーの声が出てくるんですよ。それに向き合っていると、自然と、あぁそういうことか!となって。

お客さまに対応するCSが、「お客さまが困っているので、多言語化します」となるのはある意味アクセシビリティの活動ですし、自分の中では考え方が変わってきた部分を感じますね。

平尾:WCAGで達成基準として認められるには、テスタブル(testable)である必要性がありますが、それこそユーザーの多様性を考えたとき、WCAGだけで補えるか?と言ったら多分無理ですよね。

桝田:そうですね。ただ、WCAG自体はすごく有用なので、ベースにすることは間違ってないかなと思います。

ディーゼロの教育方針は「特別扱いしない」

桝田:僕からも質問で、ディーゼロさんではどんな教育をしているんですか?

平尾:うちは特別に何かをやっていることはなくて、僕の持論が若干入るんですが、アクセシビリティを特別扱いしたくないっていうのがずっとあって。

桝田:アクセシビリティスペシャリストなのに?

平尾:そう(笑)。

スペシャリストとしてアドバイスはするんだけど、作業をするのはメンバーなんですよね。

何かアクセシビリティのために行動しなければいけないとき、パッションがある人はそのまま動けるけど、そうじゃない人は面倒くさくなってしまうなと思っていて。なので、アクセシビリティをどう馴染ませていくか考えたときに、ビジュアルデザインをやる人向け/情報設計をする人向けなど細かく分け、それぞれ大事なポイントを伝えるようにしたんです。

アクセシビリティについて語るディーゼロ平尾の写真

平尾:あえてアクセシビリティという言葉を使わずに、自然とみんなが考えられるようにしたくて、例えばSlackのチャンネルは業種や関心ごとに分かれていると思うんですが、うちはアクセシビリティチャンネルはないんです。

プロジェクトごとに「これが大切だよね」というのはどんどん啓発するけど、普段の教育は敢えてやっていません。ただ、JIS(JIS X 8341-3)のレベルAAに準拠しないといけない場合は少し異なりますが。

桝田:なるほど。わからなくもないとは思いつつ、今のSmartHRは開発組織も大きくなってきていて、今後も拡大路線なんですね。

アクセシビリティに関しては既に分業化が始まっていますが、どこかで組織構造として「アクセシビリティはあの人たちの仕事」となる未来は来ると思っています。

なので、それを前提として、開発現場ではこれぐらいのレベルのことをやってほしい/スペシャリストはここまでできないといけないと線引きをしています。

ただ、案件ごとに日々求められる品質が変わるクライアントワークと、プロダクトに求められる品質が変わらない事業会社とでは違いがあると思います。我々は後者で、急にレベルAAが必要になることがないので、ゆっくり徐々にやれてますね。

平尾:クライアントワークと事業会社とでは大きく違いがありますよね。僕のスペシャリストとしての動きも完全に横断的にやっていて、自分が手を動かすと他を見れないので、基本的に自分は作業を請け負わないようにしています。

桝田:試験もですか?

平尾:そうですね。どうしても手が足りない場合はやりますが、なるべくプロジェクトメンバーにやってもらう努力はしています。

事業会社も、制作会社も、全ての会社にとってアクセシビリティがあたりまえになって欲しい

平尾:事業会社であるSmartHRさんから見て、アクセシビリティについて他の事業会社に伝えたいことはありますか?

桝田:我々のプロダクトが使えない従業員の方がいると、導入のハードルになりますし、「誰もがその人らしく働ける社会をつくる」というミッションの達成もできない。なので、多言語化やアクセシビリティを含め、かなり本気で取り組んでますし、採用を強化するなど投資もしています。

例えば、SmartHRには従業員が使う画面と、人事労務担当者が使う画面があるんですね。今、重点的に手を加えているのは前者です。なぜなら、従業員のほうが母数も多く、多様性があるからです。ただ、この現状が人事労務に所属する視覚障害者の方など、高いアクセシビリティを必要としている方の業務を阻害している理由にもなってるわけです。

アプリケーションのアクセシビリティが低いせいで、彼らを業務から締め出してるんですよね。なので、どんなアプリケーションだろうが、アクセシビリティには取り組んでほしいなと思ってます。

平尾:アクセシビリティに取り組んだことで、売上に貢献したなど会社的なメリットはありましたか?

桝田:そうですね。例えば「既存の人事評価のシステムは特定の障害のある人が使えないから、SmartHRに切り替えるよ」という声をいただいたり、我々が多様な人を採用していることが決め手となって導入したりといった事例も増えてきています。

もちろんプロダクトだけでなく、マーケティングメッセージもあわせて重要だと思っていて。例えば「我々のプロダクトはアクセシビリティが高いですよ」と言っているWebサイトのアクセシビリティが低かったら言行不一致ですよね。そのあたりはすごく気をつけていますし、ディーゼロさんとはそこも含めて一緒に取り組ませていただいています。

平尾:ありがとうございます。今後ディーゼロにどんなことを期待しますか?

桝田:会社やプロダクトのメッセージを伝えるにも、メッセージ自体がアクセシブルである必要があると思っているので、アクセシブルな実装ができる制作会社が増えてほしいなと思ってます。だからディーゼロさんにはそういう制作会社を増やしてほしいというか。ディーゼロさんが成功してたら、真似するところも増えると思うので。

事業会社側、つまり依頼する側が、クライアントワーク領域のアクセシビリティに対する取り組みに対して寄与ができるとしたら、アクセシビリティを求める発注をする、になるかなと思います。それに対して応えてくれるディーゼロさんのような制作会社が成功してほしいし、増えてほしいですね。

平尾:そう言っていただけて嬉しいです。

普段、制作会社に依頼する際、どのような基準で選んでいるんですか?

桝田:アクセシビリティについて高い知識を持った制作会社と一緒に仕事したいし、より自分たちのプロダクトに生かせるような知見も欲しい。新しい刺激を得られる方々と一緒に仕事をしたいなと思ってます。

また、僕が協力会社の選考に参加するときは、その会社のサイトやポートフォリオを見るんですが、一定以上やってくれる、任せられる方がありがたいですよね。「AA準拠の案件をやったことがあります」と言われても、該当するサイトを見ると首を傾げてしまうことも多くて。僕はかなり厳しい目で見るんですが、ディーゼロさんはこれまでのクオリティを見ても安心してお任せできたので、すごく楽でした。

今は依頼時に「アクセシビリティはできますか?」と聞いたり、自分が研修をしたりしてるんですが、そうではなく、アクセシビリティがあたりまえのものになって欲しい。そのあたりはぜひディーゼロさんにお願いしたいですね。

平尾:ありがとうございます。会社のサイトに「アクセシビリティは矜持でなく責任」(https://www.d-zero.co.jp/reports/archives/28)というブログを投稿しました。

そこで「ディーゼロはアクセシビリティを個々の矜持にしません。会社の当然の品質、そして会社の責任と位置づけて取り組みます」と宣言したので、実行していきます。

桝田:「責任」という言葉はすごくいいですね。我々プログレッシブデザイングループが発足したときに掲げた言葉が、「『やさしさ』禁止」だったんですよ。アクセシビリティは決してやさしさではなくて、あたりまえのこと。それを実現するのが本当にやさしさなのか? というのはあって。やさしさって余裕がなくなったら消えてしまう。

アクセシビリティは「働く」を支える責任なので、本当にあたりまえにしていきたいですね。

正直、あたりまえになったら自分の仕事がなくなるかもと思うこともありますが、多分無くならないんですよ。

平尾:僕もなくならないと思います。

桝田:メディアもどんどん発達していて、例えばVRのアクセシビリティはどうするんだという話が出てきているので、この仕事は“あたりまえだけどあたりまえにならない面白さ”があるなと思っています。

平尾:ありがとうございました。SmartHRのますぴーさんでした。

 

並んで座るディーゼロ平尾とSmartHR桝田氏

動画もあわせて公開中

 

関連記事

記事一覧へ戻る