「誰かの明日を、晴れ晴れと。」をスローガンに、社会・経済・ビジネス・実用・児童書など幅広いジャンルで、ベストセラー、ロングセラーを世に送り続ける株式会社サンマーク出版。
出版不況が叫ばれ、業界全体で本が売れないという課題を抱える中、このたびKaizen Platformでは “Hit Maker から Book Lover Makerへ”というコンセプトのもと、同社のDXを支援。新たにスタートしたCRM施策では、1年間でLINE友だち数13万人を達成し、LINE1回のメッセージでAmazonランキングTOP100入りを実現するなど、着実に売上に繋がる成果が生まれています。
そこで今回は、サンマーク出版の酒見さま、三宅さま、田中さま、そして本プロジェクトを担当したKaizen Platform 水野、太田を交え、今回の取り組みに至った背景から実際の結果に至るまでを振り返りました。
出版不況にいかに立ち向かうか。書店数が半減する中、サンマーク出版が選んだのは「本好きを増やす」という選択肢
水野:あらためて、Kaizen Platformにご相談いただくに至った背景として、どのような課題感をお持ちであったのか教えてください。
酒見:当社は創業53年の出版社で、これまでも数々のミリオンセラーを世に送り出し、本をつくることに関してはプロフェッショナルであると自負しています。しかし、昨今はスマホの配信コンテンツや読書習慣の減少などが重なり、年々本が売れなくなっているというのが出版業界全体としての課題としてありました。
いい本をつくれば売れるという時代から、いい本をつくるだけでは厳しい時代になったわけです。当社としては年間で相当数の新聞広告を展開したり、メディアでの露出に努めたりと、従来型のプロモーションを積極的に行っていたのですが、それでも以前より本が売れにくくなっている、というのが大きな課題でした。
三宅:以前であれば10万部はゆうに売れたであろう本が、いまは半分くらいしか売れないんですね。そこで、プロモーションも新聞やテレビといったマス広告だけでなく、デジタル施策にも取り組むべきだということで、個々の編集者がSNSやウェブツールを使って発信を積極的に行うといったことはしていました。
しかし、デジタル領域の知見が豊富にあるわけではないため、なかなか実売に繋がっていかず、全社を横断する取り組みの必要性を感じていました。
田中:この20年で、2万店舗あった書店が現在は1万店舗を切る勢いで減少しており、そもそも本を売る場所が減っていっています。そうした中、弊社では自社製品の電子書籍化の取り組みや、オンラインサロンやイベントでの集客にも積極的に取り組んできました。それでも業界全体の冷え込み方を考えると、もっともっとギアを加速しなければという意識が強くありました。しかし、出版業界全体でもデジタル施策の事例というのはあまりなく、何をどうやっていいのかわからない状態が続いていました。
水野:様々な支援会社がある中で、どういった点が最終的にKaizen Platformにご依頼いただく決め手となりましたか?
酒見:社内の紹介で、Kaizen Platform代表の須藤さんにデジタル領域での取り組みに対して、ご相談をする機会をいただいたことがきっかけです。
そして、書籍販売以外の事業として、オンライン講座をはじめとした新規事業に取り組みはじめていたのですが、須藤さんからは「本以外のことをどうするかではなく、本好きを増やせばいいのでは」と言われて。自分たちがそのような考え方に至ってなかったことに、ハッとさせられたのをいまでも覚えています。あまりにど真ん中の課題だったので、誰もそこが見えていませんでした。
また、これまでにも広告代理店さんやコンサルティング会社さんとデジタルでの取り組みをご一緒したこともあったのですが、なかなか長期的な事業にはつながりませんでした。
一方でKaizen Platformはデジタルでの取り組みの事例をたくさん教えてくださり、私たちにはない視点をたくさんお持ちであると感じましたし、ご提案いただいた取り組み自体も非常にイメージしやすく、Kaizen Platformであれば私たちの課題を解決できるだろうと思えたことが依頼の決め手でした。
取り組みを点で終わらせないために。本好きなお客様が集まるコミュニティがマス広告以外の新しいプロモーション手段へ
水野:お話を伺い、サンマーク出版さんはこれまでは、本をヒットさせるという「点」の取り組み中心で、ヒット本をつくった成果を「線」の取り組みにつなげられていなかったことが課題としてありました。
しかし本を買ってくださるお客様が「点」としていらっしゃるわけですから、そうしたお客様同士を繋げ、本を起点にお客様がワクワクするようなコミュニティをつくっていければ、「線」の取り組みになっていくだろうと。
そこで今回、“Hit Maker から Book Lover Makerへ”というコンセプトのもと、サンマーク出版の新刊等の試し読みができたり、様々なユーザーの読書ログを閲覧できたり、生成AIを使って読んだ本から「自分だけの木」を育てていけたり。さまざまサービスと連携したLINEアプリをご提案させていただきました。
LINEアプリを『本とTREE』、自分だけの木を「My Tree」とサンマーク出版さんにネーミングしていただき、「点から線へ」の取り組みをスタートしたのです。
そして『本とTREE』では、ただスタンプを配布してLINE友だちを増やすといった施策ではなく、本好きな人が集まってくれる仕掛けが重要であると考えていました。本好きな人たちが集まり、その人たちに対してアプローチすれば、それこそ新聞広告を打つ以外の新しいプロモーション手段になりますし、お客様のためにもなる情報発信が可能になるからです。
あらためて、『本とTREE』の提案を受けての所感はいかがでしたか?
三宅:自分だけの木が育つ「My TREE」をご提案いただいたときは感動しました。そもそも本の紙は、木からできています。まるで、本と人間と自然が手をつないでいるようなステキな世界観でした。そのようなデジタルを駆使したサービスは私たち出版業界の中からは決して出てこないような提案で、衝撃を受けました。
これまでの出版ビジネスは本を買ってもらって終わりで、お客様との接点がその場限りになっていました。また10万部突破といっても、身近にその本を買った人がひとりもいないということも珍しくないため、どんな人が買ってくれているのかという実感が得られにくいんですね。
しかし、『本とTREE』であれば、そのお客様の興味がありそうな本をご紹介できたり、どんな本を本棚に入れているのか知ることができたり、1つの本を中心に読者と繋がることができるというのは非常に画期的だと感じました。「お客様ともっとつながりたい」とさまざまに取り組んできた事が思い出され、会議中だったのですが涙腺がすこし緩みました。
太田:設計にて一番大切にしていたのが、ただの読書ログアプリにするのではなく、
お客様同士の繋がりをいかにつくるか、ということでした。やはり、自分と同じ本が好きな人は他にどういった本を読んでいるのかというのは、本好きだったら気になるだろうと。
また、生成AIを使い、読んだ本の内容に応じて自分だけの「木」が育っていくなど、1回限りではなく、定期的に使ってもらえるような仕掛けをつくっていきました。
田中:本を登録すると、その本の内容から生成AIで木の画像がつくられるわけですが、生成AIでこういったことができるのかと驚きでしたし、取り組みを通じて本当にいろいろとデジタル分野での知見をいただけました。
たとえば、もともとオウンドメディアの立ち上げを予定しており、システム構築含めてゼロからつくっていこうとしていたのですが、Kaizen Platformからは「ゼロからではなく、あるものを利用するのも手です」と何度も言われ、最終的にnoteを活用してオウンドメディアを立ち上げるに至りました。
本というのは毎回ゼロイチで作っているコンテンツだからか、私たち出版社はそうしたシステムに関してもゼロからつくろうとしてしまいがちです。
しかし、ドメインパワーの観点であったり、プラットフォーム型サービスを使うことでシステムアップデートを自分たちでしなくてもよかったりと、Kaizen Platformさまから様々なアドバイスをいただけたことで、余計なコストや時間をかけずに、利便性の高いオウンドメディアを立ち上げられたと感じています。「小さく始めて、大きく育てる」という出版業界にはあまりなかった視点を与えていただけました。
1年でLINE友だち数は13万人超。1回の通知でAmazonランキング100位以内に入るなど、着実に売上にも繋がっている
水野:あらためて今回のプロジェクトを通じて、どのような成果を感じられていますか?
田中:取り組み開始から約1年で、LINE友だち数は約13万人にまで増えています。その結果、LINEでなにか本をお知らせして実売に繋がるといった動きも生まれており、実際に1回の通知でAmazonランキング100位以内に入るということも起きています。
そして、これまでは書店さんなどで出版記念イベントを開催するというときに、「集客をどうするか」が常に課題になっていたのですが、現在はLINEでイベント告知を行うこともできるため、出版社みずからが新しい集客チャネルを持てたことは非常に大きな成果だと感じています。
酒見:マス広告中心だった以前は、露出から実売までの距離が遠かったのですが、その中間にLINEという接点が持てたことで、様々な成果を実感しています。
たとえば新聞広告には出していない本もLINEでお知らせができますし、「こんな記事が読まれています」とオウンドメディアの記事をLINEで紹介した結果、メディアからの取材依頼の声がかかるなど、非常に大きなプロモーション効果が生まれています。
また、デジタルでの接点が増えたことで様々なデータを取得できますので、データからPDCAを回していくというアプローチができるようになったことも成果のひとつ。デジタルデータを活用することで、読者の反応を見ながら施策を改善できるようになりました。
三宅:今後LINE友だち数が増えていき、仮に50万人になったとして、その0.1%が本を購入していただければ、それだけで500冊になります。500冊売れるとAmazonランキングで100以内に入りますし、そうなるとSNS経由で本の情報がさまざまな形で拡散されていきます。そうなると、実際に書店さんでの売り上げが増え始めるなど、LINEの通知ひとつで広がりが生まれるというは本当にすごいことだと思っています。
そして、これまで編集者としてはデジタルマーケティングをやらないと「今後同じように本を売っていくのは難しい」とわかっていたものの、なかなか実践できていなかったり、やったとしても継続性に欠けている状況でした。
しかし、今回の取り組みで事例ができていったことで、着実に社内でのデジタルに対する意識が醸成されていると感じています。運営チームに入っていない営業部門のスタッフから「せっかく誇らしい取り組みをしているのだから、もっとシェアしてほしい」と言われるなど、部門を越えて全社がデジタルに興味を持つようになっていることは嬉しいですね。同業他社の知り合いからも積極的に質問を受けることが増えました。
太田:あらためて、これまでの取り組みを経ての感想、および今後貴社ではどのようにDXに取り組んでいく予定なのか展望をお聞かせください。
三宅:いままではデジタルマーケティングでの成功体験がなさすぎて、当初は今回のKaizen Platformさまとの取り組みもどういった形になるのかまったく想像ができていませんでした。
しかし、この1年間を通じてデジタルの知見が増えていき、「いま現在」やっているアクションが「将来」何に繋がるのか見えるようになりました。少しずつ本の実売にも繋がる成果が増え始めており、落ち込んでいたマーケットを自分たちで変えていけるのではないか、という希望が見えるようになったことに感謝しています。
田中:私自身もそうですし、私の友だち含めて同世代の活字離れというのを肌で実感していた中、自分でもいいなと思えるサービスを一緒につくっていただき、同世代の人たちにとって本を好きになるキッカケが生まれたと感じています。
今後も、本を起点にワクワクしてくれる人が増えるよう、より本好きな人たちが集まる場所へと育てていきたいと考えています。
酒見:今回、Kaizen Platformさまとの取り組みでは「本好きを増やす」という観点で進めてきましたが、この1年で学んできたDXやAI活用といったことはPRや編集の部門だけでなく、管理部門など全社的にも展開していきたいと感じています。
水野:今回の取り組みは、出版業界において進んでいなかったDXの領域に挑戦するプロジェクトでもありました。そしてLINEアプリであったり、生成AIを活用した仕組みであったりに取り組んできましたが、今後はそれらをアップデートしていくことはもちろん、いかに成果に繋がる取り組みにしていくかが重要です。
本好きな人がこれだけ集まったら、こんなすごい結果になったと言えるよう、引き続きご支援させていただければと思います。
太田:この1年間で、本好きな人たちが集まってきているというのを実感しています。今後は集まってきてくれている人たちにもっと楽しんでもらえるよう、そして売上にも繋がる動きをご一緒できればと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました!